ワルツ・フォー・デビイ
ビルエバンスである。
ジャズ史上の、名盤中の名盤中の名盤中の名盤である。
もう、10年も前のことになるが、ニュース番組の取材のコーナーで、横浜で何十年も続いたジャズ喫茶(BAR?)が本日閉店するというその模様を追った映像が紹介されていた。
今日のためにオールドファンが全国から何十人も集まってきて、別れを惜しんだというその日。
店主が、「みなさん、それではこれが最後の曲です!今まで長い間ありがとうございました!」
「それでは、最後の曲、かけます!」と、泣きの涙で叫んだ後にスピーカーから出た音は、このアルバムの一曲目の”マイ・フーリッシュ・ハート”であった。
このエピソードが、このアルバムの価値を十二分に物語っている。
ジャズ喫茶の経営者といえば、”その人の人生そのものがジャズ”と言って差し支えないだろう。
その人が人生の最後の舞台でかける曲は、その人にとって最高の物、一番愛している物で無い筈がない。
このエバンストリオの名演はある意味、”ジャズの全て”であると言って差し支えないはずと思う。
少なくともその店主にとっては。
しかし、あまねく人間世界にとっても同じことと思う。
このトリオが奏でる音。
詩的音楽世界。
ジャズのクールな要素の根底に根差すリリシズム。
このアルバムの一曲目、最初の一音が出た瞬間に表出される音宇宙。
一瞬に瞬きながら、永遠であるもの。
永遠を紡ぎながら、一瞬でありうるもの。
色即是空とはこのことか。
(よくわかりません)